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「特許法第35条第6項に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益
について定める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等に関
する指針」の制定について
平 成 2 8 年 4 月
特 許 庁
1.改正前職務発明制度の概要
特許法(以下、法律名省略)第35条に定める職務発明制度は、従業者等(従業者、役員、公
務員)の権利を保護して発明のインセンティブを確保するとともに、使用者等(使用者、法
人、国又は地方公共団体)による職務発明の効率的な利用を促す観点から、特許を受ける権
利等の承継等に関し、第33条等に定める一般原則(特許を受ける権利の移転に関する規定
等)に対する特例規定を設け、使用者等と従業者等の利害の調整を図っている。
職務発明の特許を受ける権利等の承継等に関しては、従業者等は、使用者等に比べ交渉力
が弱く、不利な立場になりがちであることから、従業者等を保護するため、改正前第35条
第3項にて、契約、勤務規則その他の定めにより従業者等から使用者等に特許を受ける権利
等が承継等される場合には、「相当の対価」の支払を受ける権利を従業者等が有することを
定めている。契約、勤務規則その他の定めにおいて、従業者等が支払を受けることができる
対価について定めた場合には、原則としてその定めたところに基づき決定される対価を「相
当の対価」としている。
ただし、従業者等と使用者等との間には、その有する情報の量や質、交渉力における格差
が存在することから、改正前第35条第4項にて、契約、勤務規則その他の定めにおいて対
価について定める場合において、それが「相当の対価」と認められるためには、その対価が
決定されて支払われるまでの全過程を総合的に評価して不合理と認められるものであって
はならないこととしている。
2.制定の背景
平成28年4月1日に職務発明制度の見直しを含む「特許法等の一部を改正する法律」
(平成27年法律第55号)が施行された。
本改正では、従業者等が受ける権利を有する「相当の対価」を、「相当の金銭その他の経
済上の利益(以下、「相当の利益」という)」に改めることとし、この「相当の利益」につ
いて法的な予見可能性を向上させるために、改正後第35条第6項(新設規定)に、改正後
第35条第5項(改正前第4項)に係る考慮すべき状況等に関する事項(契約、勤務規則そ
の他の定めに基づいて「相当の利益」を与えることの不合理性の判断に関する考慮事項)に
ついて、経済産業大臣が指針を定める旨法定した。
この指針は契約、勤務規則その他の定めに基づいて「相当の利益」を与えることの不合理
性の判断に関する考慮事項について具体的に明示することで、発明者たる従業者等に与えら
れる「相当の利益」についての予見可能性を高めて発明者を保護し、これによって発明を奨
励することを目的としている。
このため、新たに経済産業大臣告示として、指針を定めることが必要である。