量子数
1粒子系編集
1粒子系のハミルトニアンの固有値問題(時間依存しないシュレーディンガー方程式)を解いた場合、解として多くのエネルギー固有状態・エネルギー固有値(以下、固有値)の組が得られる。解く段階では、それぞれのエネルギー固有状態に適当な番号付けが行われる。この番号が量子数であり、解である多くのエネルギー固有状態を量子数を使って区別する。
一般に得られる固有値は連続ではなく飛び飛びの値を持つので、普通は最もエネルギーの低い固有値をゼロ番目として、エネルギーの低いものから順に高いものに向かって番号付けしていくことが多い。
エネルギー固有状態は次の四つの量子数で区別される。
- 主量子数 n(principal quantum number)
- 方位量子数 l(軌道角運動量量子数、azimuthal quantum number)
- 磁気量子数 ml(軌道磁気量子数、magnetic quantum number)
- スピン磁気量子数 ms(spin quantum number)
各量子数には次のような制限がある。
パウリの排他原理によれば「四つの量子数(n, l, ml, ms)で決まる一つの量子状態にはただ一つの電子しか入ることができない」。これは一般に半整数スピンのフェルミ粒子(電子など)には当てはまるが、整数スピンのボーズ粒子(光子など)には当てはまらない。
フントの規則によれば「電子は1つずつ等エネルギーで磁気量子数mlが異なる別々の軌道に同じ電子スピン磁気量子数msをとりながら配置されていく」。
水素原子における量子数編集
n = 1, l = 0 のとき1s軌道とよばれ、ここには二つの電子がそれぞれ異なるスピンをもって入る。
n = 2, l = 1, ml = 1 のときは2pz軌道とよばれ、やはり二つの電子が異なるスピンをもって入る。
多電子系の場合でも有効核電荷の概念を用いれば水素原子型に帰着できる。
主量子数編集
主量子数 n は、電子の波動関数が原子半径方向の定常波を表す量子数と考えることができる。水素原子のように中心力だけを考えればよいモデルでは、固有値εn(電子に許されるエネルギー)は主量子数 n だけの関数になり、次のようにとびとびの値になる。
ここで、Z は 原子番号、 Ze で原子核の電荷、me は電子の質量、e は素電荷、ε0 は真空の誘電率である。水素原子の場合は Z = 1 である。なお、固有値εn は n2 重に縮退している。なぜなら、主量子数が n のとき、方位量子数 l と磁気量子数 ml は
- 個
のいずれかの状態を取りうるから、状態の総数は各 l に対する ml を足し合わせて
のようにn2 状態あるが、これらの状態は固有値には関与していないからである。ただし、一般には、外場の存在などにより縮退が解けるので、水素原子の固有値は主量子数 n と方位量子数 l の関数になる。以上は非相対論的に解いた結果であり、また、スピン軌道相互作用の影響やラムシフトなども考慮していない。
素粒子における量子数編集
素粒子は、それらに内在的であると通常は考えられる多くの量子数を含む。各量子数は問題の対称性を表す。
時空対称性に関係する典型的な量子数は、スピン(回転対称性に関係)、パリティ、CパリティおよびTパリティ(時空のポアンカレ対称性に関係)である。内部対称性に関係する典型的な量子数は、レプトン数およびバリオン数または電荷である。(この種の量子数の詳細な記述はフレーバーを参照)
多くの保存する量子数は加法的である。しかしながら、いくつかの量子数(通常はパリティ)は乗法的であり、それらの積は保存する。すべての乗法的な量子数は、対称性変換を二度行う操作は何もしない操作と等価であるような対称性(パリティのような)に属する。加法的対称性および乗法的対称性は、Z2と呼ばれる抽象群の性質を持つ。
補足編集
量子数はただ1組とは限らず、原理的には多数存在しうる。状態を区別できるのであれば量子数はどのように選んでも良い。しかし系の物理量がとる値自身、またはそれを区別する数を量子数として採用するしか方法は無い。例えばN粒子系では、各粒子の位置を量子数に選んでも良いし、運動量を選ぶこともできる。このときは量子数は全部で3N個となる。また一次元調和振動子では、位置や運動量を選ぶこともできるが、エネルギー固有値の番号を選ぶこともできる。位置や運動量を量子数として選んだ場合は量子数は連続変数となるが、エネルギー固有値の番号を選んだ場合は量子数は離散値になる[1]。
参考文献編集
- ^ 湯川秀樹、豊田利幸 編 「量子力学 I (新装版 現代物理学の基礎 第3巻)」岩波書店、2011年