付録A Appendix - 特許業界とタップハイライト
前書きで少し触れましたが、長くなりそうだったのでAppendixとして独立させました。自分は特許業界に居たことがあります。実体験も少し話します。
前書きを復習すると、
- タップハイライト自体は実績がない。
- タップハイライトの元となった多色ハイライトの存在(★)
- 特許文書は難文書
- 多色ハイライトでその難文書を楽に多読
- 特許文書に類似する文書には多色ハイライトが適用できる、と推定
- しかし、上記類似文書に多色ハイライトをそのまま適用すると難点あり(多色ハイライトの限界)(★)
- 難点を克服すべく多色ハイライトを改良したのがタップハイライト
- 筆者的にはタップハイライトの上記類似文書への適用に手応えを感じている
- 次は多くの人に体験してもらいたい、今回は特に技術書で(今ここ)
本文中で触れていないのは★マークなのでAppendixではそこに触れていきます。
A.1 タップハイライトの元となった多色ハイライト
A.1.1 多色ハイライトが常識な業界 - 特許業界
特許業界ではタップハイライトのように多色ハイライトを使い分けて文書を読むことは常識です。
図A.1: 特許業界の多色ハイライト(設定画面)
図A.2: 特許業界の多色ハイライト(ハイライト結果)
つまり多色ハイライトはグロテスクに見えるかもですが、既に慣れている人たちは居ます。皆さんも慣れれば確実に使いこなせます。
A.1.2 特許文書を多読する理由
前書きの特許文書は音ゲーの始まりとなったビートマニアというゲームの特許文書の一部抜粋です(答え合わせ)。文書全部は抜粋の20倍くらいあります。それを特許業界では人によっては一日十件くらい読んでいます。
この量を捌く、つまり多読するのに多色ハイライトを使っています。なぜそんなにたくさんの文書を読むのか、理由は以下のとおりです(筆者の経験した文脈のみ書いています)。
まず、既に存在する技術には特許は与えられません。特許取得には一般に100万円程度かかるので、見込みのない出願はしたくありません。その際に、最初に膨大な量の既に存在する特許文献を調べる、という仕事です。
他にも同業他社の特許で自社の製品が抵触しているもの(特許を侵害しているもの)が無いか、抵触している場合は差し止め請求や損害賠償が発生します。それを未然に防ぐために定期的に特許調査したりします。
ライセンス契約を結ぶ際に相手方の特許戦力がどれくらいかも調べます。個人発明家や特許ゴロ(トロールといいます)から届いた特許紹介(私の特許使いませんか?=使っていたらお金を払うように)のお手紙に返答するためにその発明家の保有する特許を網羅的に調べたりします*1。自社の特許でどれが強いか、とかもやってました。技術者に対する報奨の文脈です(強い特許の発明者なら数年単位でお金がもらえたりしました)。
。
他にも合ったかと思いますが、定常的にも突発的にも特許を読む機会が多かったです。
私はかなりうんざりしていました。が、多色ハイライトのおかげで苦痛が軽減されていたのは確かです。多色ハイライトがない時代(電子化されていない時代)に同様の仕事をしてた方々はすごいなぁって改めて思います*2。
A.2 多色ハイライトの限界
そんなに特許業界で有効に使われている技術なら、なぜ一般の読書で使われてなかったのか、特許業界の文書だけにしか使えない技術なんじゃないか、と思われるかも知れません。一般の読書で使われない理由はいくつかあります。結論を先に書くと以下の2つです。順に見ていきます。
- 特許業界では多色ハイライトから得られるリターンが一般の難文書よりも大きい
- 特許業界では設定コストが0なプリセットなハイライト(後述)で済む場合が多い
- 一方で一般の難文書ではアドホックなハイライトが必要な文脈が多い
- アドホックなハイライトにかかるコストは多色ハイライトでは大きい(大きすぎる)
- 結果として一般の難文書では多色ハイライトではハイライトコストが高すぎて旨味がなかった
A.2.1 多色ハイライトから得られるリターン - 同じ単語が出現する頻度
頻度大な特許文書
ビートマニア特許をもう一度見てほしいですが、特許文献は『同じ単語』が何度も何度も登場します。哲学・数学・法律と同程度と見ていいです。しかも一文献がかなり長く、その文献内の随所に同じ単語が散らばってます。ここまで行くと多少面倒でも多色ハイライトしたくなるわけです。
頻度小な一般の難文書
それに対して一般の難文書では同じ単語が出ると行っても特許文献ほどでないです。キーボード、マウスからのメニュー選択という面倒な手続きを経た後で、ハイライトされたのが数単語程度だとがっくり来てしまいます。
A.2.2 プリセットなハイライト
読書する前に予めハイライト語を指定することを以下、「プリセットなハイライト」と呼ぶことにします。読書中に都度ハイライト語を指定する「アドホックなハイライト」の対義語です。特許文書の場合はプリセットなハイライトがよくなされます。プリセットなハイライトは『読書中』のハイライトコストがゼロです(読書前の設定はゼロではないですが)。以下、特許業界でプリセットなハイライトが使われる文脈を説明します。
A.2.2.1 特許検索(キーワード検索)
特許業界では多色ハイライトは『特許検索』の文脈で使われることが多いです。特許検索時にキーワードを指定します。それで出てきた検索結果の文献をバババって読んでいくのですが、『検索語』が『文献のどこに書かれているか』、これを知りたい。そのために多色ハイライトが使われます。なおこれが大事なのですが、キーワードを指定した時点で自動でハイライトがかかります。これはある意味でプリセットと言えます。検索語がどこ?の文脈では、読書中にアドホックに単語指定する必要ないです。
A.2.2.2 特定技術分野の調査
特許文書が読まれる文脈として、『ある技術分野の調査』であることがあります。その場合は、その技術分野に特有のキーワードをプリセット出来ます。私も対〇〇用とか対△△用という名称でいくつかプリセット登録していました。
A.2.2.3 ハイライト語が集まる場所 - 請求項、図面番号
更に特許文書では何をハイライトすべきか、の作戦が立てやすいです。「特許請求の範囲」(「請求項」)や「図面番号」にかかれている単語をハイライトすればいいからです。
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】
筐体と、
前記筐体の前面に設けられた表示装置と、
前記筐体の前面で、かつその前面と向かい合ったプレイヤーからみて手元となる位置に設置された複数の演出操作手段と、
音楽およびその音楽に対する演出手順に関するデータをそれぞれ記憶する記憶手段と、
前記記憶手段の記憶内容に基づいて前記音楽を演奏する演奏手段と、
前記演奏手段による演奏の進行に連動して、前記演出操作手段を用いた演出操作を前記記憶手段の記憶内容に従って前記プレイヤーに前記表示装置を通じて視覚的に指示する演出操作指示手段と、
前記プレイヤーによる前記演出操作に応じた演出効果を発生させる演出効果発生手段と、
前記記憶手段が記憶する前記演出手順と前記プレイヤーによる前記演出操作との相関関係に基づいて当該演出操作を評価する評価手段と、
前記評価手段の評価結果に対応した情報をプレイヤーに対して表示する評価表示手段と、
を備え、
前記演出操作指示手段は、少なくとも一部の領域が、前記複数の演出操作手段のそれぞれに対応付けられた複数かつ所定方向に延びるトラックに区分可能なインジケータを前記表示装置の画面上に表示させるとともに、前記複数のトラックのそれぞれには、各トラックに対応付けられた前記演出操作手段の操作時期を示すための指示標識を、その指示標識に対応する演出操作手段の操作時期が到来したときに当該指示標識が前記トラックの一定個所に設定された演出操作位置に到達するように、前記トラックに沿って移動させつつ表示させることを特徴とする音楽演出ゲーム機。
ハイライト語が集まる請求項
請求項に特許で認められる権利の範囲を定義しています。請求項で使われている単語を『明細書』(これを主に読む)で詳細に説明しています。請求項の解釈次第で特許侵害になるか否かが決まるので、明細書を読み込むことになります。その際には請求項の単語を多色ハイライトするだけで十分、となります。更に請求項は一箇所にまとまっています。なので、請求項を見て一括で複数の単語を指定出来ます。
ハイライト語が集まる図面番号
他にも「図面番号」も使えます。これも一箇所にまとまっています。
【符号の説明】
- 1 ゲーム機
- 2 筐体
- 6 モニタ
- 7A,7B 装飾灯
- 8A,8B,8C スピーカ
- 12A,12B 演出操作部
- 13 鍵盤入力装置
- 14 ターンテーブル入力装置
- 15A,15B,15C,15D,15E 鍵盤キー
- 23 スライドディスク
- 30 補助入力装置
- 35 硬貨管理装置
- 50 CPU
- 56 補助記憶装置
- 61 グルーヴゲージ表示部
- 61a ゲージ枠
- 61b ゲージバー
- 62A,62B スコア表示部
- 65A,65B インジケータ
- 66A,66B,66C,66D,66E 鍵盤トラック
- 67 ターンテーブルトラック
- 68,69 アイコン
図A.3: ビートマニア特許の図面
これらは読書前に行えます。プリセット的な運用です。
A.2.3 一般の難文書 - アドホックなハイライトが多い
一方で一般の難文書だとどうでしょうか。
A.2.3.1 技術分野に特有のハイライト語を事前指定可能
分野ごとにハイライト語を予めプリセットするのは特許文献と同様に可能です。*3
A.2.3.2 散らばるハイライト語(小見出し)
本文でも触れましたが、一般の難文書では小見出しを参考にすると効果的にハイライトできました。しかし小見出しは散らばっています。なので一括指定は基本的には出来ず、都度キーボード等を取り出して個別に指定が必要、となります。すごく面倒です。*4
A.2.4 多色ハイライトでのアドホックなハイライトのコスト
多色ハイライトでのアドホックなハイライトのコストは非常に大きいです。キーボードをいちいち使ったり、マウスでハイライトしたいキーワードを矩形選択しどの色にするかも選択する必要があります。これでは読書からの集中を大きく欠かせてしまいます。
A.2.5 まとめ(多色ハイライトの限界)
まとめると、
- 一般の難文書への多色ハイライトはリターン(単位設定あたりのハイライト面積)が特許文書ほどではない
- 特許文書はハイライトコストがゼロなプリセットなハイライトで済む文脈が多い
- 一方で一般の難文書はハイライト語は小見出しから得るため、(目次がない場合は)読み進める中でアドホックに何度もハイライトする必要がある。
- アドホックなハイライトのコストは多色ハイライトでは非常に大きい。
- アドホックなハイライトの頻度が多い一般の難文書では多色ハイライトではコストがメリットを上回ってしまう。
以上が、特許業界では既に実績があるにも関わらず、多色ハイライトがこれまで一般の読書には適用されてこなかった理由です。
逆に、タップハイライトはアドホックなハイライトのコストを大きく下げられました。それによりリターンがコストを上回ったため、一般の難文書への適用に耐えうる技術になりました。*5
最後に追加の議論をします。アドホックなハイライトがプリセットのそれに優るという話です。
A.2.5.1 プリセットなハイライトに優るアドホックなハイライト
アドホックなハイライトは、プリセットなハイライトのような『既に完成されたハイライト』、つまりいきなり多色が展開している状態を避けられます。いきなり多色が展開していると、、、
- 『ハイライト趣旨』が読めなかったり、
- 『多色』に圧倒されたり、
- 人によっては『自分の教科書に他人に無断でひかれたマーカー』の如き嫌悪感を覚えたり、
します。また、
- プリセット語が必ずしも重要語でない場合、つまりノイズになる際は設定解除が必要になったり、
します。
ある場所では重要語であっても、他の場所で重要語である必然性はないです。
このプリセット解除も読書からの集中を欠く要素になります。必要なものだけを必要なときにアドホックにハイライトするのが結果的には正解と実感しています。
実感するには本Appendixでハイライトを色々試したあとで他章を読んでみてください。自分で設定したものにも関わらず、かなり読みづらい、場合によっては不快感を覚えるはずです。
A.3 まとめ
以上、特許業界の話でした。これからは特許業界にもタップハイライトを売り込んでいくつもりです。直近だと11月に開催される『特許・情報フェア2022』に参加予定です。出展側ではなく参加者側ですが。
もしタップハイライトにご興味のある個人、企業の方、いらっしゃったらメールで連絡ください。各特許検索サービス(Webで提供、つまりタップハイライト拡張が使える)で試しましたが効果は絶大です。ご提供されているサービスに大きな付加価値をつけられる自信があります。