前書き
電子本(PDF)を使ってお遊びします。*1*2「タップハイライト」(拡張)という読書アプリをご紹介します。みなさんがおそらく体験したことが無いであろう不思議な読書感をお約束します。
タップハイライトは、難しい文書(以下、「難文書」とします)の視認性を飛躍的に向上させます。何が不思議かというと、やさしい本には効果が小さく、本が難しければ難しいほど効果的な点です(理由は本文で触れます)。
難文書の具体例
一言で言うと専門性の高く、正確性が問われる文書です。例えば教科書、論文、参考書(資格試験)、法令、製品マニュアル、仕様書などです*3。「技術書」、技術ブログ(Qiita,Zenn等)、もこれに含まれます。
タップハイライト
名前は読書時の動作に由来します。百聞は一見に如かずなのでこちらをご覧ください。
図1: タップハイライト
文章中の単語を「タップ」するだけで同じ単語が同じ色に「ハイライト」されます。*4静止画だと分かりづらいので、下記リンクの動画を参照ください。
* https://functoy.com/
機能自体はシンプルです。が、見慣れないギミックと思います*5。初見ではグロテスクというか目がチカチカする印象を持たれるかも知れません。しかし、慣れると難文章が視認性良く楽に読めます。俯瞰的視点が手に入ります。
ただ、やっぱり初見時のグロテスクさは大体の人に当てはまるみたいです。読者の皆さんも、
- 電子本という単語で釣られてここまで読んだ
- でもグロテスクさを覚えた
- そっ閉じしようかな(いまココ)
って方が多い気がします。
本書のテーマ
本書ではここから先に興味を持ってもらうべく、『タップハイライトで難文書が読みやすくなる根拠』をテーマにします。実績、理屈、自己体験の3アプローチを採ります。
実績による説明
タップハイライト自体は完成が最近で実績がありません。しかし、タップハイライトの元となった技術があります。「多色ハイライト」です。多色ハイライトを多用して難文書を楽に読んでいる業界が存在します。それは「特許」業界です。長くなったので詳細はAppendixに書きました*6。要約すると、
- 「特許文書」は難文書である
- 多色ハイライトでその難文書を楽に読んでいる、しかも多読する(実績は十分)
- 特許文書に類似する文書には多色ハイライトが適用できる、と推定される
- しかし、上記類似文書に多色ハイライトをそのまま適用すると難点がある
- 難点を克服すべく多色ハイライトを改良したのがタップハイライト*7
- 筆者的にはタップハイライトの上記類似文書への適用に手応えを感じている
- 次は多くの人に体験してもらいたい、今回は特に技術書で(今ここ)
ご参考ですが特許業界の文書例は以下のとおりです。某有名ゲームの特許(特許第2922509号)です(Appendixに答えを書きました。)*8結構難しい文書と思われますがいかがですか?これの20倍が1つの文献です。これを人によっては1日に10文献くらい読みます。多色ハイライトなしではベリーハードになるのは間違いないです。
某有名ゲームの特許(一部抜粋)
(タップハイライト時のヒント)数字をタップしたあとで、「〇〇」X(Xは数字)の箇所をハイライト。例えば「ターンテーブル入力装置」12なら「ターンテーブル」「入力」「装置」など。
【0060】
【発明の実施の形態】図1は本発明の一実施形態に係る音楽演出ゲーム機の外観を示し、図2はその内部構造を示している。このゲーム機1は筐体2の内外に各種部品を装着して構成される。筐体2は、本体3と、その上部に取り付けられるトップボックス4とを有している。本体3の上部には画面表示部5が設けられている。画面表示部5にはCRTを利用したモニタ6が設置され、そのモニタ6の両側には縦長の装飾灯7A,7Aが設けられている。画面表示部5の下方にはスピーカ8Aが設置される。スピーカ8Aの下方には前方への突出部9が設けられ、その突出部9の前面にもスピーカ8Bが設置される。
【0061】突出部9の上面にはコントロールパネル10が設けられている。コントロールパネル10は、プレイヤーがモニタ6と向かい合う位置に立ったとき、そのプレイヤーの手元に位置するようにその高さが調整されている。コントロールパネル10の中央には硬貨投入口11が設置され、その左方には一人目のプレイヤー用の演出操作部12Aが、右方には二人目のプレイヤー用の演出操作部12Bがそれぞれ設けられている。演出操作部12A,12Bには、鍵盤入力装置13およびターンテーブル入力装置14がそれぞれ設けられる。
【0062】鍵盤入力装置13には、押釦式のスイッチを用いた5個の鍵盤キー15A,15B,15C,15D,15Eが設けられている。これら鍵盤キー15A〜15Eは、楽器の鍵盤の配列を模してプレイヤーの手前側に3個の鍵盤キー15A,15C,15Eが、それらの隙間に合わせて後方に2個の鍵盤キー15B,15Dが並べられている。なお、以下では、演出操作部12A,12Bを特に区別する必要のないときは演出操作部12と表記し、鍵盤キー15A〜15Eについても同様に鍵盤キー15と表記することがある。
【0063】図1において鍵盤キー15の上面は平坦に描かれているが、例えば図3に示したようにプレイヤーからみて奥側に突起部15pを設けてもよい。なお、各鍵盤キー15にはLED等を用いた表示灯17が設けられる。表示灯17に代えて鍵盤キー15の内部に電球等の発光体を設け、鍵盤キー15そのものを発光させてもよい。
理屈による説明
次に、理屈面でのアプローチです。まず、「理解することの本質」、「難文書の特徴」に注目します(定性的理解)*9。タップハイライトはこの「難文書の特徴」にうまくマッチしています。*10。具体的には、以下の流れで理屈を説明します。
最初に難文書とはなにかを掴むために具体例を示します。具体例は先ほど述べたように「特許文書」に似た文書です。
次に、難文書の特徴、およびその特徴に起因する難文書の難しさ(読者目線での)を説明します。
- 文書全てに共通の特徴
- 理解することの本質
- 難文書に特有の特徴
- 読者目線での難文書の難しさ
最後に「タップハイライト」で難文書をどう攻略するかを説明します。
- タップハイライトの特徴
- タップハイライトによる難文書の攻略
自己体験による説明
最後に、自己体験です。本書自体がタップハイライトで読みやすくなることを読者に自己体験してもらいます。本書はPDFの形で技術書典マーケットやBoothで頒布していますが、筆者のページに本書のタップハイライト可能版を掲載しています。そちらで読んでほしいです。リンクは下になります。
- タップハイライト可能な本書 (https://functoy.com/pplbook)
- マーケット (https://techbookfest.org/product/2qWQFdRVJpKL5cHmXsLxNf)
本書は敢えて難文書になるように書いています。タップハイライトを使ったので本書も楽に読めた、となれば理屈とは違う説得力が出てくると期待しています。
ただし楽に読めるように、文中にヒントを残しました(「」の単語をタップすると○です)。
タップハイライトでの本書の読み方
詳細はこちら(https://functoy.com/howtoppl)です。ボタンが左上に来ている点、注意してください。以下、簡単な操作方法だけを抜粋します。
起動とタップハイライト
まず、左上の黄色「ボタン」を押します(起動)。これでタップハイライトが可能な状態になります。その後は文章中の単語をガシガシタップしてみてください。対応する単語が網羅的に同じ色にハイライトされます。起動後は左のボタンでオプションボタンの表示・非表示、表示された真ん中のボタンでUndo, Reset, 右のボタンで目次の表示・非表示です。タップにミスった際はUndo、マーカーが邪魔になったり、まっさらな気持ちでやり直したいときはResetがおすすめです。
特に、各章を読み始める際はResetをかけたほうが良いです(必ずResetをかけてくださいと言ったほうが良いかも知れません。)。いきなり多色ハイライトが展開しているよりも、まっさらな状態でハイライトを都度行うほうが読みやすいです。*11
ハイライト戦略
以下の3つを参考に戦略的にタップ(ハイライト)していくと読みやすくなります。
- 小見出しの単語をタップする
- 「」(カギカッコ)の中の単語も同様(ヒント語)
- 形容詞と名詞は分けてタップする
注意点として、漢字・ひらがなは始点と終点を2回タップする必要があります。それ以外(カタカナ、ローマ字、数字など)は1回タップでハイライトされます。これは漢字・ひらがなは区切りが明確でないため、読者が指定してあげる必要があります。それに対し、漢字・ひらがな『以外』はある程度まとまりが分かるので1タップでそのまとまりを一括してハイライトできるのです。*12
2回タップの際(ひらがな、漢字のいずれかをタップ)にキャンセルしたい場合は、文字のない箇所をタップしてください。
タップハイライト拡張を動かす環境
本書
本書の電子本(PDF)でタップハイライト可能なものを筆者のサイトに掲載してあります。もう一度リンクを示します。
- タップハイライト可能な本書 (https://functoy.com/pplbook)
後述のSafari拡張を導入せずとも普通のブラウザで読めます。
電子本で遊ぶ1(任意の文書)
ご自身が所有する電子本(PDF)でタップハイライト体験してみてほしいです。*13*14。本書でもいいですが、やっぱり読者ご自身が興味を持っている本で試すのが一番です。また、遊んでいる中で新規軸が出てくるかもと期待しています。電子本で遊ぶには以下のSafari拡張が必要です(追記:なしでも遊べるようにしました。本章最後を参照ください)。
Safari拡張
Web上の文書、PDFをタップハイライト可能にするSafari拡張(タップハイライト拡張 - PPL)をリリースしています。5ドルの有料アプリです。ハードとしてiPhone, iPad, Mac、ソフトとしてPPLが必要になります。
技術に対する思い
タップハイライトが普及すれば、難文書を読む読者が増えるはずです。つまり技術書を買う人も増えると期待しています。書き手側もインプットにかかる労力を減らし、その後に控えるアウトプットに注力できるはずです。つまり技術書の種類、数も増えると期待しています。
ただし、技術の有効性について多くの人の検証はなされていません。フィードバックいただけると幸いです。
本書が想定する読者
- 読書好きな人
- 新しい物好きな人
- 難文書に困っている人
- PPLを既に導入済みの人
- 読書法ヲタの人
過去作の読者への連絡
詳細は「タップハイライト」の章を見てほしいですが、これまでの過去作で最重要視していた「自然な単位」という概念を捨てました*15*16。本書でご紹介しているアプリ(PPL)も本書も完全に新作になっています。過去作では「自然な単位」と「タップハイライト」が混ざっている状態でしたが後者に一本化しています。
- 半自動着色読書 = 「自然な単位」 && 「タップハイライト」
前著があまりにも分かりにくい、という感想を頂いて反省しました。しかしそれにより、複雑に絡み合っていた技術がうまく分かれてくれました。こういう読者とのやり取りが発生するイベントに参加するのは良いことですね。今回も何か得られないか期待しています。
電子本で遊ぶ2(20220920追記)
任意のブラウザ、プラットフォームでも電子本で遊べるようにしました。具体的手順は以下のサイトをご覧ください。
- https://functoy.com/pplbook
免責事項
本書に記載された内容は、情報の提供のみを目的としています。したがって、本書を用いた開発、製作、運用は、必ずご自身の責任と判断によって行ってください。これらの情報による開発、製作、運用の結果について、著者はいかなる責任も負いません。
変更履歴
- 20220910 初版
- 20220925 第2版(任意のブラウザ、プラットフォームでも電子本が遊べる話を追記)
- 20221112 第3版(イベントを前提としない書き方に変更)